上の例では,たとえ足首が十分やわらかくても,
バタ足では推進力が出たり出なかったりになることを見ました.
出たり出なかったりということは,時間で平均すれば,
トータルではほとんど出ないということになります.
これは必ずしも,バタ足では推進力が出ないということではありません.
げんに皆さんバタ足だけで進むことができますよね.
これは,クロールの場合,手による推進力が大きいため,
バタ足による推進力で出せるスピードより速く泳いでしまっていて,
その結果として,バタ足による推進力が無いように見えるということなのです.
この説明を船を使って表した図を下に示します.
クロールでの手と足の推進力の関係
前側の大きいスクリューが手,後ろ側の小さいスクリューが足に対応しています.
この船は,前側の大きいスクリューが無くても,
小さいスクリューだけでも進みます.
しかし,大きいスクリューがあると,
小さいスクリューだけのときより,ずっと速く進むことができるので,
その速さのときには,小さいスクリューを回しても,
小さいスクリューはほとんど推進力を出しません.
ただ,止めてしまうと抵抗になってしまうので,
小さいスクリューも,回したほうが良いことは間違いありません.
クロールの手と足についても同じことが言えます.
バタ足は,バタ足だけで進むことができますが,
バタ足よりも手のかきによって得られる推進力の方がずっと大きいので,
見かけ上は,それほど推進力になっていないように見えます.
しかし,バタ足をした方が良いことには間違いありません.
また,バタ足には推進力以外にも役割があります.
「スイム?スワム?スワム!」でクロールのアニメーションを見てみると,
足が水から受ける力は,足を打ち上げる時の下向きの力より,
足を打ち下ろす上向きの力の方が大きいことがわかります.
この上向きの分により,下半身を持ち上げる効果が発生します.
人間の体は水より少しだけ重いので,ほうっておくと沈みます.
上半身には肺があり,肺の中の空気が浮き袋の役割をして浮きますが,
下半身は沈むいっぽうです.
そこでバタ足をおこなうと,力強くけり下ろすことによって,
下半身を持ち上げる上向きの力を生み出すことができます.
では「スイム?スワム?スワム!」で,バタ足をあまり打たないと
どうなるか見てみましょう.
クロールを呼び出し,「じょうけんをかえてシミュレーションする」をクリックし,
右側の項目の中から「キックの大きさ(倍)」を出して 1.0 から 0.5 にします.
そして「このじょうけんでシミュレーションする!」をクリックしてシミュレーションを開始します.
どうでしょうか?
ずいぶんと下半身が沈んでしまったのがわかると思います.
また,泳ぎの速さやエネルギーの効率も低くなってしまいました.
このように,バタ足には推進力以外にも,下半身を持ち上げるという
重要な役割があります.
そのため,やはりしっかりとキックすることが重要と言えるでしょう.
~ やってみよう ~
バタ足の大きさについて,0.5倍だけでなく,
1.0倍より少しずつ大きくしたり小さくしたりしてシミュレーションしてみましょう.
泳ぎにどのような変化が見られるでしょうか?
できれば,泳ぎの速さや推進効率もグラフにしてみましょう.
ただし,クロールは左右にローリングしながら進む,
もともと不安定な泳ぎかたであるため,
条件によっては,
シミュレーションでも安定に泳がないときもあると思います.
実際には,スイマーは安定に泳げるように無意識に泳ぎかたを
変えて調節しているわけですが,
シミュレーションでは純粋にバタ足だけの大きさを変えるので,
バランスが崩れてしまうわけですね.